疲れた体はなかなかベットから出てくれない。
朦朧とした私に囁きかけるようにLeon Russellの「A SONG FOR YOU」が流れ、遅めのブランチを
とる頃には休日の落ち着いた平和な時間が訪れた・・・
心地良い時間の中、何気にロッドラックに目をやると、使い込まれた傷だらけの赤いロッドが視界に
入り、「今日も行くか・・・」と呟きながらお気に入りのBJパワーゼロⅡを握りしめ、平穏な時間に後ろ
髪を引かれながら駐車場に向かった。
そこには愛車「Forester」がいつものように佇んでいる。VIPERのセキュリティー解除音が日曜日の
静まり返った空間に響き、イグニッションキーを回すと水平対向4気筒2.0Lターボエンジンがオートバイ
にも似たリズムを奏で目覚めた・・・
通いなれた湾岸線を南下、2本目の煙草を手にした頃にはいつものフィールドに到着した。
9月半ばを過ぎたのもかかわらず日差しが厳しい・・・
お気に入りのO.S.Pキャップをおもむろにかぶり、ギラついた海面に目をやるとハングの影で何かが
動く、「よし!いける」と赤いロッドに所どころ黒い塗装が剥げかけたシーマチック68をセット、騒ぎ始め
た心を落ち着かせながら仕掛けを打ち込み目印を捌く・・・
数投目、目印がハングに吸い込まれる瞬間、ピッ!と不自然な動きをSight masterスーパーセレンの
スクリーンが捉えた!
バシッ!と反射的に手首を返すと、ズンッ!と重みが伝わり一瞬時間が止まる。
「デ、デカイ・・・」と感じた瞬間、暴力的な引きに変貌し、ロッドの赤い筋肉がレッドゾーンに達すると
スプールを押さえた親指が限界を超えジリジリと滑り、アドレナリンで一杯の頭は終息を望み出す。
強烈な締め込みは幾度となく襲いかかり、ロッドを握りしめた右腕の握力が失われかけたその時、
ようやく相手のトルク感が鈍りを見せ始めた。
時間が止まったかのような長い激闘の末、胸鰭で降参の合図をしながら海面を割ったのは紛れもなく
怪物だった。
ランディングネットに入るのか!?と疑心暗鬼の中、力尽きたその怪物は何の抵抗もすることなく
クライマックスを望んだ・・・
脱力感を漂わせながら目の前で横たわる幾多の困難を乗り越えたであろう老成魚を見ていると、
達成感から空虚感が込み上げ、急いで海に戻すとおぼつかない足取りかのようにフラフラと曖昧な
翠海の深みに消えて行く・・・
琥珀色から開放された視界には、夏を惜しむ青い空にLUCKY STRIKEの紫煙がオーバーラップ
され安堵色の空に映り変わっていた。